金音創作奨 台湾からアジアに広がる音楽交流
台湾インディー音楽の祭典、金音創作奨(Golden Music Award)。
第12回の発表が11月6日に行われます。
この原稿は、発表前に執筆しているので、受賞者のことには言及できませんが、
賞のことや、ノミネートアーティストのことなどについて書いていければと思います。
金音創作奨(Golden Indie Music Award)とは
このコラムの1回目で書きました、金曲奨(Golden Music Award 以下、金曲奨)と同じく、
金音創作奨(Golden Indie Music Award 以下、金音奨)も、
台湾文化部という中華民国(台湾)行政院に所属する省庁が主催するものです。
2010年に設立され、英語名の記載されているように、インディー音楽のアーティストに賞を授与しています。
台湾も世界の潮流と同じように、メジャーとインディーズの境目が曖昧になっているところもありますので、
金曲奨(Golden Melody Award)のアーティストと作品が、金音奨にノミネートされ受賞するこということもあります。
音楽ビジネスのあり方が、大きく変化している今、こういったことは自然の成り行きではないかと思います。
“インディーズの注目株!”というと、若いアーティストで今後はメジャーレーベルから華々しく活躍をするイメージを持たれる方もいると思います。
各種メディアでも、メジャーデビューしたアーティストを大きく宣伝することが多いので、そういった印象もありますが、
メジャーで経験を積んだアーティストが、自身の表現をもっと深堀りしたい、自分のペースで制作したいという理由で、インディーズでリリースすることもあります。
メジャーレーベルの経験が無くても、円熟した音楽を制作するアーティストもたくさんいます。
日本にも、そのようなアーティストがたくさん存在しています。
金音奨のノミネートアーティストを見ても、若手からベテランまで幅広い人材が名を連ねています。
ベテラン馬念先の存在感!
ノミネートアーティストの中で、経験豊富で存在感抜群なのが、馬念先です。
最佳創作歌手獎(ベストシンガーソングライター賞)と、最佳另類流行專輯獎(ベストオルタナティヴ・ポップアルバム賞)にノミネートされている彼は、
シンガーソングライターだけではなく、役者としてのキャリアも持っています。
ノミネート作品『Mama Jeans and Daddy Shoes』は、シティポップ要素が入りながらも、
ラップやジャズの雰囲気が感じられ、彼の個性が光っています。
「1989的下午」アルバム『Mama Jeans and Daddy Shoes』
馬念先は、1994年に、4ピースバンド糯米糰(Sticky Rice)のメンバーとしてデビュー。
シティポップから、独自路線の楽曲までを自在に操る唯一無二のバンドで、彼はソングライティングを担当しています。
「巴黎草莓」(パリのイチゴ)
2000年発表のアルバム『青春鳥王』に収録されているこの曲は、
台湾シティポップの金字塔と言っても過言ではない1曲です。
昨年にオンラインで行われた、台湾の3ピースバンド宇宙人(Cosmos People)のオンラインライブで、馬念先がゲスト出演し、メンバーと一緒に「巴黎草莓」を披露すると、チャット画面が苺の絵文字で埋め尽くされていました。
もちろん彼の登場も大盛り上がりで、彼のあだ名“馬尿”(どうやら学生時代に付けられたようです。凄いあだ名ですね…。)という文字や馬の絵文字がチャット画面に飛び交っていたことからも、馬念先の台湾での人気を伺い知ることができました。
ちなみに彼は、Our Favorite CityでYonYonと対談した9m88とコラボした楽曲「Walking Towards Me」を発表しています。
「Walking Towards Me」
まだまだいるぞ!注目アーティスト
台湾と日本のインディーズ音楽の交流を目的としているOur Favorite Cityでは、
金曲奨のノミネートアーティストは全て紹介したいところですが、
さすがにボリューム的に厳しい…。
そこで、日本でのライブ経験やインビュー経験もあるアーティストを中心に3組ご紹介します。
拍謝少年(Sorry Youth)
最佳樂團獎(ベストバンド賞)と最佳搖滾專輯獎(ベストロックアルバム賞)にノミネート。
今年9月末には、渋谷にあるduo MUSIC EXCHANGEで開催されたCall Out Musicで、日本のバンド the band apartと遠隔対バンを行いました。
今回ノミネートされた作品『歹勢好勢(Bad Times, Good Times)』は、日本盤もリリースされています。
高雄出身の彼らは台湾語で歌い、夜市を題材にしながらも人生に想いを馳せる曲や、
森林政策により暮らしが変わってしまう台湾原住民のことなど、台湾を描く楽曲があることも特徴です。
それだけではなく、40代が見えてきた自分たちをNo Youthと少し自虐的にしながらも、
ポジティブに生きていくことも描き、親しみやすさも感じるバンドです。
「踅夜市」Live Session @基隆廟口夜市
東京中央線
最佳爵士專輯獎(ベストジャズアルバム賞)と最佳爵士歌曲獎(ベストジャズソング賞)にノミネート。
ご存知の方も多いかもしれませんが、大竹研(ギター)早川徹(ベース)福島紀明(ドラム)の日本人トリオです。
アルバム『Fly By Light』がアルバム賞に、収録曲「Vagabond Dance」がジャズソング賞にノミネートされています。
台湾を拠点に活動している彼らは、2018年には高雄で開催されているフェス「大港開唱(Mega Port Festival)」に出演。
2019年には金曲奨で最佳專輯獎 (アルバム賞)を始めとする3部門にノミネートされるなど、
人気と実力を兼ね備えるトリオです。
また、東京中央線のメンバーは、生祥樂隊という別のバンドにも参加しています。
生祥樂隊も、最佳民謠專輯獎(ベストフォークアルバム賞)と 最佳民謠歌曲獎(ベストフォークソング賞)にノミネートされています。
両バンドで受賞という偉業を達成できるか注目するのも面白いかと思います。
アルバム賞ノミネート『野蓮出庄』に収録されている「豆腐牯 The Tofu Guy」。
この曲で、フォークソング賞にノミネートされています。
YELLOW
音楽ファンの間で注目を集めるアーティスト、YELLOW。
バンド名がYELLOWで、バンドのフロントマンであり、音楽プロデューサーとしても活躍するのが、YELLOW黄宣です。
YELLOW黄宣は、アルバム『浮世擊』で最佳創作歌手獎(ベストシンガーソングライター賞)に。
バンドとしては、収録曲「後現代獨白」で最佳節奏藍調歌曲獎(ベストR&Bソング賞)と、
大港開唱(Mega Port Festival)でのライブが、最佳現場演出獎(ベストライブパフォーマンス賞)にノミネートされています。
ノミネート曲「後現代獨白 Post-monologue」は、アルバム『浮世擊』収録。
ロック、ジャズ、エレクトロなどの要素を備えた、言わばミクスチャーバンドのYELLOWは、
耳にした瞬間にカッコいいという言葉が口を衝いて出てしまいます。
YELLOW黄宣は、今年の夏にTAIWAN BEATSのインタビュー(インタビュアー:関谷元子さん)で、幼少期から幅広い音楽に親しんできたことや、
日本のアーティストでは、常田大希(King Gnu, Millennium Parade)の音楽が好きだと話しています。
YELLOW黄宣は、今年開催された第32回金曲奨で、
台湾の女性シンガー呂薔(Amuyi)の楽曲、「你是不是誤會什麼 (Miss understanding)」で
最佳編曲人獎 (編曲者賞)にノミネート。
また、9m88とコラボレーションした「怪天氣」では、余佳倫とともに最佳單曲製作人獎 (シングルプロデューサー賞)にノミネートされました。
「怪天氣」
アジア全体の音楽交流拠点として
他にも、Our Favorite CityでSOIL&"PIMP"SESSIONSの社長と対談した、ヒップホップシンガーLeo王は最佳現場演出獎(ベストライブパフォーマンス賞)に。
金曲奨で、最佳樂團獎 (最優秀バンド賞)を獲得した、落日飛車も、最佳另類流行專輯獎(ベストオルタナティヴ・ポップアルバム賞)と最佳另類流行歌曲獎(ベストオルタナティヴ・ポップソング賞)にノミネートされています。
昨年から設立された「亞洲創作音樂獎(ベストアジアンクリエイティブアーティスト賞)」には、
日本からはCHAIと、ピアノユニット・EIKO+ERIKOがノミネートされています。
また、プレゼンターとして、電気グルーヴが出演するというニュースが、10月29日に発表されるなど、
日本を含めたアジア各国のインディー音楽の祭典という色合いが濃くなっていることを感じます。
賞をきっかけに、ノミネートアーティスト、受賞アーティストがアジア全体で活躍し、
そこから多くの音楽交流が生まれることを願っています。
石井由紀子(いしいゆきこ)
ラジオパーソナリティ、ナレーター。
無類の音楽好きで、国内外問わず様々な音楽を聴く。台湾人の友人と一緒に仕事をしたことを機に、台湾音楽の魅力に惹きこまれ、もっと深く知るために日々勉強中。ミュージックソムリエの資格を持つ。
Twitter @YukikoIshii928