金曲奨から考える台湾の音楽事情

Our Favorite City ニッポン × タイワン オンガクカクメイ

2021/06/08 19:00

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「台湾は音楽も面白い。」と思う人が、徐々に増えているように感じます。

往年のテレサ・テンなどの歌謡曲も素敵ですが、近年はシティポップやR&B、ネオソウルなど、さまざまなジャンルのユニークな音楽が生まれています。


このコラムでは、近年の台湾音楽のアーティストや音楽情報をご紹介していきたいと思います。

第1回は、台湾最大の音楽アワード、金曲奨(Golden Melody Award)についてです。



金曲奨とは?


台湾の音楽に興味を持ち始めると、よく目にする単語のひとつに、「金曲奨」(Golden Melody Award 以下、金曲奨と表記)というものがあります。

これは、毎年6月に発表される音楽賞で、台湾文化部という中華民国(台湾)行政院に所属する省庁が主催するものです。

なお、昨年は新型コロナウイスの影響で授賞式は10月に延期。今年も同じ理由で延期となり、6月1日現在、開催日は未定です。


金曲奨は、1年間にリリースされた優秀な作品に授与される賞ですが、大きな特徴は、主要部門の賞が言語別になっていることと、条件を満たしていれば、台湾以外の作品やアーティストもノミネートの対象になることです。

台湾は、九州よりもやや小さい土地の中で、中国語(台湾華語)、台湾語、客家(はっか)語、原住民語(*1)と、複数の言語を使用する多民族国家です。


また、台湾以外の作品やアーティストも対象というのは、大らかで多様な面を持った台湾らしさがあるなと感じています。



音楽業界も多様


台湾の省庁が主催する音楽賞というと、メジャーな作品ばかりがノミネートされるイメージがありますが、実際は少し異なります。


例えば今年の金曲奨「年度歌曲獎」(年間楽曲賞)には、五月天 Maydayなどと共に、桑布伊(サンプーイ)という原住民、プユマ族のアーティストがノミネートされています。

YouTube再生回数1億回を越えるMVを持つ五月天Maydayと、再生回数が約1万回の桑布伊(サンプーイ)。

再生回数だけを比較しても、ノミネートされるアーティストが多様であることが分かります。


これだけ多様な作品やアーティストが集まるのには、金曲奨は応募が出来ることも関係していると思います。


台湾の音楽産業も小規模な企業が多く、大手レーベルや事務所、世界的なレーベル所属のアーティストは、ほんの一部です。

しかし、会社の規模は小さくても、良い作品を制作すれば、金曲奨という大きなステージに立つチャンスがあります。

小規模ビジネスで音楽活動をするアーティストでも、金曲奨に名前が挙がることが常なのです。



今年の主要部門ノミネートの注目アーティスト

 

今年のノミネート作品から、私がオススメしたいアーティストを3組紹介します。

いろいろなアーティストがいますが、シティポップやロック、そしてR&Bをベースとした若手を中心に紹介します。



落日飛車(Sunset Rollercoaster)

2011 年結成。カテゴライズするならAORからシティポップ寄りのバンドです。


シンセサイザーの広がる音と柔らかな歌声が、霧雨のように優しく降り注ぎ、心地が良いです。

ゆるやかなグルーヴに体を預けながら聴くのは、個人的には最高の癒しだと感じています。

彼らは、日本にもファンも多く、近年の台湾インディーズの代表格と言える存在です。


アルバム『SOFT STREAM』(原題:柔性風暴)で、最佳樂團獎 (バンド賞)、同アルバム収録曲「Candlelight (feat. OHHYUK)」のMVを監督したDQMが最佳MV獎 (ミュージックビデオ賞)にノミネートされています。



「Candlelight (feat. OHHYUK)」




青虫(aoi)

2017年結成の4人組バンド。

中国語だけではなく、台湾語や英語でも創作をしています。


ギターボーカルのジェニー(吉尼)の透明感のある可愛らしい歌声が、ポップなバンドサウンドと良く合っています。

ポップからエレクトロ寄りの軽やかな音楽を奏でるバンドです。

最佳台語專輯獎 (台湾語アルバム賞)と最佳新人獎 (新人賞)に、ノミネートされたアルバム『有你的故事』は、台湾語で作詞された作品を収録しています。



「無你的故事 feat. 林柏宏」



フィーチャリングされている林柏宏は、俳優・歌手として活躍している人物です。



žž瑋琪 (読み:ウェイチー)

台湾の原住民、パイワン族の血を引くアーティストで、ジャズやR&Bをベースにした楽曲をパイワン族の言葉で歌います。

まだ若いアーティストですが、低音の歌声が似合うR&Bの楽曲から、伸びやかなバラードまで、アルバム『žž』には彼女の魅力が詰まっています。


この作品は、昨年の金曲奨で、年度專輯獎(年間アルバム賞)、年度歌曲獎(年間楽曲賞)、最佳原住民語專輯獎(原住民語アルバム賞)の三冠を達成した、阿爆(アーバオ)がリリースをサポートしています。

なお阿爆も、žž瑋琪と同じパイワン族のアーティストです。



「台北風」(Blow Over Taipei)




第32回金曲奨の授賞式は、最初にも紹介した通り、新型コロナウイルスの影響により開催が延期されました。

6月1日現在、開催日は発表されていませんが、ノミネート作品をじっくり聴き、受賞者の予想ができるようになったと、ポジティブに考えて楽しむのも良いかなと思っています。


日本でもメジャーとインディーズの境目が薄まっていますが、台湾では、その垣根は更に低く、多くの面白い作品が生まれているように感じます。


このコラムでは、少しずつ台湾のアーティストをご紹介していければと思いますので、よろしくお願いします。


金曲奨 公式YouTubeチャンネル

過去の授賞式の様子なども見ることが出来ます。

「台湾のグラミー賞」と称されるのも頷ける、華やかな授賞式の模様を楽しめます。今年も何かしらの形で、私たちも授賞式の様子を楽しめると思います。

https://www.youtube.com/channel/UC_r0QUJ6T4ZLaadqQcaA7qw


*1 原住民という表現について
台湾では、先住民は既に滅んでしまった民族を意味しますので、現地の呼び方に合わせて、「原住民」と呼んでいます。








石井由紀子(いしいゆきこ)

ラジオパーソナリティ、ナレーター。
無類の音楽好きで、国内外問わず様々な音楽を聴く。台湾人の友人と一緒に仕事をしたことを機に、台湾音楽の魅力に惹きこまれ、もっと深く知るために日々勉強中。ミュージックソムリエの資格を持つ。

 Twitter @YukikoIshii928


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